中小企業のデジタル化は着実に進んでいる。デジタル化の取組が「業務効率化やデータ分析」「ビジネスモデルの変革」といった段階まで進んだ企業の割合は、2019年時点では2割に満たなかったのに対し、2022年時点では3割を超えた(中小企業庁「2023年版中小企業白書」)。一方で、システム導入・刷新のプロジェクトのうち、コスト・納期・満足度のいずれかを満たせず「失敗」に終わったものは47.2%——約半分にのぼるという調査もある(日経コンピュータ「ITプロジェクト実態調査2018」、1,745件対象)。
システム化に取り組む会社は増えているのに、なぜ約半分が思うようにいかないのか。liensが受託開発で採っているのは「一番困っている業務を1つ選び、小さく作って、試しながら作り上げる」という進め方だ。要件を最初にすべて固めてから一括で発注する従来型の進め方と比べて、なぜこちらが有効なのか、データで具体的に見ていく。

要件定義の見落としは、あとになるほど高くつく
IPA(情報処理推進機構)が「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」で紹介している事例(基盤”Server系”・処理形態”Online”のケース)によると、要件定義工程で混入した欠陥を要件定義工程のレビューで摘出できた場合の手戻りコストを「1.00」とすると、発見が遅れるほど倍率は跳ね上がる。基本設計で気づけば2.30倍、パッケージ設計5.90倍、プログラム設計6.38倍、プログラミング9.33倍、統合テスト11.86倍、そして最後のシステムテスト工程まで持ち越すと13.09倍になる(デグレード率25%を想定したケース。基盤が”Host系”の場合はシステムテストで13.70倍)。
要件をすべて固めてから一括で作り切り、最後にまとめてテストする進め方は、この構造上「問題の発覚が最後になりやすい」というリスクを抱えている。認識のズレに気づいたときには、すでに設計・実装の大部分が終わっていて直すコストが最大化している、という状態になりやすい。
「一括で全部発注」は、規模が小さくても安全ではない
JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)「企業IT動向調査報告書2021」(2020年度調査)によると、開発規模が100人月未満という比較的小規模なシステム開発プロジェクトでも、工期が「予定通り完了」したのは39.1%(n=829)、予算が「予定通り完了」したのは52.6%(n=823)、成果物の品質に「満足」と回答したのは28.9%(n=827)にとどまる。
この調査の回答企業は東証一部上場企業等が中心で、必ずしも中小企業の実態そのものではない。ただし、要件定義の精度が結果を左右するという構造は、発注側の企業規模を問わず当てはまる。むしろ「小規模な案件だから安全」という思い込みのほうが危うい。規模の大小にかかわらず、要件・仕様の詰めが甘いまま一括で発注すれば、思った通りには終わらないリスクがある。
「小さく作って試す」——liensの進め方
liensが受託開発で採っているのは、次のような進め方だ。
- 一番困っている業務を1つ選ぶ(顧客管理・予約台帳・在庫管理など、複数の業務を一度に置き換えようとしない)
- その業務だけを動くかたちで小さく作り、実際に使ってみる(触ってみて初めて分かる認識のズレを、早い段階で拾う)
- 良ければ次の業務へ広げ、違えば軌道修正する(要件定義工程の見落としが後工程まで持ち越される前に直す)
大きな初期投資を最初にまとめて決める必要がないのも、この進め方の利点だ。「Excelと紙でなんとかしている業務」がいくつもある会社ほど、全部を一度にシステム化しようとせず、一番困っている業務から着手するほうが、結果的に前項のような手戻りリスクを小さく保てる。

発注前に確認しておきたい5つのポイント
受託開発を検討する際、発注前に次の5点を確認しておくと、進め方のミスマッチを避けやすい。
- 納期・コスト・品質のどれを最優先にするか、社内で決めているか(優先順位が曖昧なプロジェクトほど工期が守られにくい傾向がある)
- 「一番困っている業務」を1つに絞り込めているか、それとも全部を一度に片づけようとしていないか
- 発注先は、要件をすべて固めてから見積もる方式か、小さく作って試しながら進める方式に対応しているか
- 最初のリリースまでに、動くものを早い段階で確認できる計画になっているか
- 要件が変わった場合、影響範囲をどう小さく保つかについて、発注先とあらかじめ合意できているか
この5点を発注前に確認しておくだけでも、「要件定義工程の見落としがシステムテストまで持ち越される」という、手戻りコストが最大化する事態はかなり避けやすくなる。
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出典一覧
- 日経クロステック「10年ぶりの実態調査で見えた、ITプロジェクト成功率の低下」(日経コンピュータ2018年3月1日号)
- IPA(情報処理推進機構)「ユーザのための要件定義ガイド 第2版 要件定義を成功に導く128の勘どころ」(2019年9月)
- JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)「企業IT動向調査報告書2021」(2021年4月)
- 中小企業庁「2023年版中小企業白書」第2部第3章第2節