「このシステムを入れると、何がどのくらい良くなるんですか」——見積もりを見た経営者から、liensの受託開発チームがよく受ける質問だ。答えに詰まってしまう会社は多い。実際、IT導入をためらう理由の1位は「コストが負担できない」(30.6%)だが、僅差の2位は「導入の効果が分からない、評価できない」(29.6%)——ほぼ横並びで、効果を数字にできないこと自体が投資判断の壁になっている(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」2017年12月、中小企業庁「2018年版中小企業白書」掲載、n=3,806)。
ROI(投資対効果)の計算式そのものは「(効果の金額-投資額)÷投資額」というだけで、難しい数式ではない。難しいのは、その「効果の金額」に何を入れるかだ。何を数字に含めるべきか、liensが受託開発の現場で使っている考え方を、具体例つきで解説する。

「効果を計算する仕組み」自体がない会社が多い
中小企業庁「2023年版小規模企業白書」によると、デジタル化の取組について評価指標を設定している中小企業は2割程度、達成状況の管理まで実施している企業は1割に満たない。費用対効果を「十分に検討できている」と回答した企業も1割に満たず、従業員21人以上の会社に限っても、検討できているのは約5割にとどまる(20人以下では約3割)。
つまり多くの会社は、効果を測る「ものさし」自体を持たないままシステムに投資している。ものさしがなければ、導入後に「元が取れたか」を誰にも答えられない。そして次の投資判断のときも、また勘に頼ることになる。
効果の金額に、何を入れるか
ROIの「効果の金額」には、少なくとも次の3つのカテゴリを検討する価値がある。
- 削減できる作業時間の価値——転記・集計・二重入力などにかかっていた時間を、時給換算した金額
- ミス・手戻りの削減額——入力ミスや連絡漏れによってやり直しが発生していたコスト
- 取りこぼしていた機会の回収額——対応が遅れて逃していた問い合わせ・成約・予約の機会
この3つ目は、liensのもう一つの事業であるAIチャットボットのROIとも共通する考え方だ。「答えるだけ」ではなく「取りこぼしを減らす」ことが効果として計上できるかどうかで、試算の幅は大きく変わる。
費用側にも見落としがある。多くの見積もり比較では初期費用だけを見て判断しがちだが、年間の運用・保守費用まで含めた総費用で計算しないと、ROIは実態より良く見えてしまう。
試算してみる——ひとつの計算例
たとえば、月20時間かかっていた転記作業をシステム化で削減できるとする。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」の短時間労働者の1時間当たり平均賃金1,476円を使うと、月20時間の削減効果は29,520円、年間では354,240円になる。
ここに、月1件程度発生していた入力ミスのやり直し(仮に1件あたり1万円相当の手戻りとする)を年間で防げるとすれば年12万円が加わる。さらに、対応の遅れで取りこぼしていた問い合わせのうち、月1件でも受注につながっていたとすれば、その金額はさらに大きく効果を押し上げる。
同じシステムでも、「時間削減だけ」を効果に入れるか、「ミス削減」「機会損失の回収」まで含めるかで、ROIの数字は何倍にも変わる。逆に言えば、効果を過小評価したまま「元が取れない」と判断してしまっているケースも少なくない。
ROIを甘く見積もる、よくある3つの罠
- 削減時間を過大に見積もる——導入直後は操作に慣れず、むしろ一時的に作業時間が増える。移行期間を考慮せずに「即・満額の効果」で試算すると外れる
- 運用・保守費用を計算に入れない——初期費用だけで判断し、月々のランニングコストを見落とす
- 「導入すれば自動的に効果が出る」と思い込む——現場に定着させる運用設計(誰が入力するか、どう周知するか)のコストを見積もりに入れていない
「小さく作って試す」なら、見積もりを実測に置き換えられる
これらの罠を避ける近道は、最初から全社的な大きな投資判断をしないことだ。liensが受託開発で採っているのは、一番困っている業務を1つ選び、小さく作って実際に使ってみるという進め方(詳しくは「業務システム受託開発、失敗しないための進め方」)。試算はあくまで「着手する価値があるか」を判断する材料であり、実際に動かしてみれば、削減できた時間もミスの減り方も、見積もりではなく実測値で分かる。
そこで得た実測値をもとに、次の業務に広げるかどうかを判断する。ROIは一度計算して終わりではなく、小さく検証するたびに精度が上がっていくものだ。

自分の数字で試算してみる
次の表の空欄に、自社の数字を当てはめてみてほしい。正確でなくても、まず数字を置いてみることが「勘で判断する」状態から抜け出す第一歩になる。
| 項目 | 考え方 | あなたの数字 |
|---|---|---|
| 削減できる作業時間(月間) | 転記・集計・二重入力などにかかっている時間 | 時間/月 |
| 時給換算額 | 参考: 厚労省調査の平均は1,476円(短時間労働者) | 円/時間 |
| 年間の時間削減効果 | 削減時間×時給×12ヶ月 | 円/年 |
| ミス・手戻りの削減額 | やり直し・二重対応にかかっていたコスト | 円/年 |
| 機会損失の回収額 | 対応の遅れで取りこぼしていた問い合わせ・成約 | 円/年 |
| 効果の合計 | 上記3つの合計 | 円/年 |
| 初期費用 | 導入時に一度だけかかる費用 | 円 |
| 年間の運用・保守費用 | ランニングコスト | 円/年 |
| ROI | (効果の合計-費用)÷費用 | % |
この表を埋めてみて「思ったより効果が大きい」「逆に費用が見合わない」のどちらであっても、それは勘で判断するよりずっと確かな材料になる。試算した上で、まずは一番困っている業務から小さく始めてみたい場合は、liensに相談してほしい。
関連記事: 業務システム、既製ソフトと受託開発どちらを選ぶべきか / 業務システム受託開発、失敗しないための進め方 / 効果測定・KPI設計
出典一覧
- 中小企業庁「2018年版(平成30年版)中小企業白書」第2部第4章第2節(第2-4-11図、原調査: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」2017年12月、n=3,806)
- 中小企業庁「2023年版小規模企業白書」第2部第2章第2節(第2-2-30図・第2-2-31図)
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査の概況」(短時間労働者の1時間当たり所定内給与額)